「氷の伯爵」の感想

アン・グレイシーさんの「氷の伯爵」のネタバレあり感想です。

この前感想を書いた作品と似たようなタイトルですが探せばもっとありそう。

 

あらすじは

天涯孤独で親戚を頼り、家庭教師として無給で働いていたタレイアは

ある日氷の伯爵と呼ばれるダレンウィル伯爵の結婚相手を探すパーティーに参加させられ見事選ばれる。

しかし伯爵は馬を選ぶように相手を吟味しており

子供を産めれば誰でも良いと言っていることをタレイアは聞いてしまう。

 

なかなかにひどい出だし。

これですごいのは、伯爵は本当に馬を選ぶように奥さんを探していることに間違いがなかったことです。決め手は違いましたが。

馬を見る目はあるようですがこれを聞いて怒らない人はいないでしょう。

もちろんタレイアはショックを受け断ることを決めますが

それを聞いた親戚がただでさえタレイアが選ばれたことが気に食わないのに

さらにメンツを潰されたと激怒し解雇を言い渡します。

無一文で何もない田舎へ強制的に帰されるよりかは

馬のようにただ子供を産むだけの人生の方がまだマシなのではないかと

泣く泣く伯爵の求婚に応えます。

が、その主人公の気持ちを伯爵は把握しておりこちらも激怒。

ただ引くに引けず三週間後に結婚式は強行されますが

式が始まるまで2人は会話どころか会うこともありませんでした。

 

こんな流れなのにワクワクするのはなぜだろう。

おそらくそれこそ氷のようだった伯爵がこの短い出会いで

タレイアに惹かれているのが分かるから安心感があるからかも。

そして主人公はなんだかんだで伯爵の外見を好ましく思っています。

このマイナスとみせかけてプラスが潜んでいる関係から

どうやって幸せになるのかと

先が気になって読む手が止まらなくなります。

 

面白かったのがすれ違いがすごいところ。

健康的な雌馬を探すようなつもりでいた伯爵は、

タレイアの子供への愛情の深さに感銘を受け

子供時代にトラウマを抱えていたからこそ、この人しかいないと思っているのに

自分から愛情をうまく示すことができていないので勘違いされ続けます。

 

タレイアは伯爵の態度に一喜一憂して忙しい。

あんなに親しくなったのに、次の日にはどこまでも冷徹。

押してだめなら引いてみろを教えてくれる友人を得られたのは

大変幸運だったしそっけなくされて焦る伯爵も面白かった。

 

さらにタレイアはパリを伯爵と一緒にまわりたいのに

ただ観光したいと思われていてがっかりしますが、

1人で出かける時のために伯爵につけられた従僕が

絶対に浮気しないように変わった風貌の男性を選んでいるなど

無意識に独占欲を出されています。

 

タレイアの置かれた境遇の中で自分の精一杯をしようという姿勢に好感がもてます。

ストレスを感じると空想の世界へ逃げて自分を保とうとしますが

伯爵との関係が深まっていくと

空想の相手が伯爵へすり替わっていくので大変意識しているのが分かるのも良い。

さらにストレスで爪を噛む癖があるのを自制し、

自分の綺麗な爪先に誇りを持っているところが大変可愛らしかった。

ただ結婚してからはまた噛む癖が出てしまい

それを含めて伯爵に受け入れられているところも大好きなシーンです。

 

伯爵は伯爵で自分の知っている一般女性の価値観を当てはめて

タレイアに喜んでもらおうとプレゼントなどをして奮闘していますが

元から贅沢な暮らしをしていないタレイアが

ピンときていないのにイライラしているのも良いすれ違いで楽しい。

自分が彼女に夢中になっていることにすら気が付いていなそうです。

 

イタリアへ行くための山越えのシーンは

思いがけず昔の風土に触れることができました。

いくらお金を持っていても楽はできないんですね。

それを言ったら領地へ行くために2日間馬車に揺られるなど

現代に生きてて良かったと思うことがしばしば。

 

待望の赤ちゃんを妊娠したと分かったとたん

伯爵は子供が産まれるまでには帰ってくると簡潔な手紙を残しお屋敷から出ていってしまいます。

いよいよもってお前には興味がない必要なのは子供だけという態度にしか思えない行動。

でもそれもこれもすべてはタレイアのためでした。

勘違いさせるような行動しかできない伯爵。

でも今までのすれ違いはどうしようもないと思えたけれど、

最後の手紙はなぜ家を出るのか、何をしに行くのかは書いたほうがいいかも。

それかまめに連絡をとるとか。

伯爵は今まさに戦争中の場所にタレイアの生き別れの弟を探しに行ったわけですが

旦那が自分に興味がないと思わせる手紙と

自分のために危険極まりない土地へ行っているのを知る

どっちがましですかね。

こう並べると無事に帰るなら前者の方が良い気がするからこれでよかったのか?

タレイアが打ちひしがれながらも伯爵のことを想い続けてたのはせめてもの救い。

 

ただ最悪な親戚がそのままなのは少し気になります。

改心や謝罪は無理そうですが、放置され興味を持たれていない子供達や

優しい使用人達と別れてそのままなのが少し寂しい。

あまり良い環境には見えないお家でしたが、

昔の貴族では当たり前の境遇だったのかもしれない。

 

最後の伯爵の殺し文句を含め、最初から最後まで大変素敵な作品でした。

この作者の違う作品も読んでみたい。

しかしタイトルがよくある系で損してる気がする。

 

★★★★★