「黒の公爵」の感想

マーガレット・ムーアさんの「黒の公爵」のネタバレあり感想です。

 

あらすじ

悪い評判しかない黒の公爵の義理の母親の話し相手として働いている主人公。

お屋敷にめったに表れない公爵が足を負傷して帰ってきた。決闘の結果だ。

いくら女癖も悪いと言われる公爵でも自分のように不器量な女性には興味を持たないだろうと思っていたのに、気が付くとお互い意識するようになっていた。

 

最初はなかなか面白かったです。

 

悪い評判しかない黒の公爵であるヒーロー。

一見人当たりが良く魅力的な腹違いのヒーローの弟。

牧師補の純朴な青年。

見た目も性格も良い若いお嬢さん。

そしてみなから口を揃えて不器量と評価される主人公。

 

色々と気持ちの矢印が交錯してどうやって落ち着いていくのかと

楽しみに読めていました。

とくに若いお嬢さんが珍しく性格が良いので

どうか身の安全を守りながら幸せになってほしいとハラハラさせられました。

 

結局弟さんの不始末をヒーローが負っていたのが悪評の原因だったんですが

さすがにすぐばれると思うんですよね。

主人公ですら聞き分けられないほど声が似ていても

髪の色が黒と金髪と明らかに違うなら早々間違えないと思うんですが。

 

あと、主人公の見た目が良くないと再三言われ続けるのですが

本当に?と思ってしまう。

主人公の容姿は

茶色のたっぷりとした髪、青い目、綺麗な鼻、薄くない唇と白い肌だそうです。

十分魅力的な描写だと思うのですが

なぜずっと見た目をこき下ろされてるのかわからない。

せめてお化粧をしっかりしていないから第一印象が地味とかだったら分かるんですが。

実際舞踏会を開いた時に着飾ったら

プロポーションが良いのもあって見違えたそうです。

そのすぐ後に訪れた若いお嬢さんの前にはすぐ霞んでしまったようですが

お嬢さんが際立って美人だっただけなので

とりあえず人並み以上なことは確かなはず。

 

ヒーローが主人公を意識したのは最初に出会った時なんですが

自分の容姿に反応しない真面目な珍しい女性というのが原因です。

実は主人公はバリバリに意識してたんですけどね。

顔も赤くなったりしてたのにヒーローは気が付かなかったようです。

それだけで不意打ちにキスするくらい気があるようになるの展開が速すぎないか。

悪評通りと思われても仕方ない。

 

さらに弟さんも参戦しますがこれは兄への嫌がらせなので唐突でも大丈夫。

段々と惹かれているようでしたが、

きっと手に入れたら雑に扱うタイプだったと思います。

 

牧師補の青年はもしかしたら主人公に恋愛感情があったのかもしれませんが

若いお嬢さんの登場で消し飛びます。

でも主人公は最初から意識してなかったのでノーダメージです。

 

若いお嬢さんは弟さんの表面的な魅力にやられかけますが

ヒーローの機転で牧師補との幸せな将来へ向けて突き進みます。

玉の輿に乗せたくて仕方なかった狡猾そうなお父さんが

それをあっさり諦めて2人の中を認めたのはよくわからない。

 

そしてヒーローは自分が被っている弟の悪評のせいで臆病になっており

主人公を諦めようとしますが、

主人公がグイグイ動いたおかげでプロポーズをします。

こういう本はどうしても体の関係が出てくるのですが

この話ではいっさいそれがありません。すごい。

最初に関係を持ってしまってずるずると続き、最後に結婚がセオリーのなかで

段階をふんでからのプロポーズのあとですら

そこへ至らないのはとても良いことだと思います。

 

弟に脅された主人公が逆に弟を脅し返すところも良かったです。

 

ただ評価できるのはそこらへんだけで

父親の遺言を言い訳に弟の悪い評判を一身に受けて最後見放すヒーロー。

常に過保護な義理の兄と実の母親からの反抗心と見せかけて

たぶん元から性格の悪い弟。

そこらへんのしがらみに寄り添わず、

かばってもらってるのにその態度はないと説教する主人公。

 

段々全員嫌いになってきます。

 

さらに弟は兄が関心を寄せたと思い込んだ女性に手を出しており、

妊娠したと分かると逃げてしまいました。

さらに悪いことにその子供は死産になってしまい

女性は気がふれてしまったうえ病気で余命いくばくもなくなってしまいます。

そして弟と結婚したと思い込んでおり、お屋敷の目前まで訪れますが

薬で眠らせてどこか預かってもらうところを探さないととヒーローが言って

その人のシーンは終了。登場しません。

 

なんでこの人いれた?

 

おそらくヒーローに亡くなった子供が?という疑惑をこちらに植え付けたかったのと

弟がいかに屑だったのかをアピールするためだと思いますが

ここまできたら本懐をとげるか最低限弟に責任をとらす、

または再会させるまでしないとストーリーとしておかしいんじゃないですかね。

 

義理の母親が血縁関係がないのにヒーローのお金を散財することに対して

亡くなった父親の遺言があるからやりたいようにやらせているようですが

そこらへんの描写もない。

なのに主人公と結婚を決意したヒーローは家からあっさり追い出します。

衣食住は保証されてるとは思いますが切り替えが早すぎる。

 

耳が遠くなってしまった執事が納得して仕事を辞めることができたのかも気になります。

 

それにヒーロー初登場時の決闘の理由もはっきりと明かされません。

確実に弟の尻ぬぐいなんですが、

当事者じゃない人が決闘することに相手は納得したんですかね。

 

そしてその弟はヒーローにキレてもう戻らないと家を飛び出してそれっきりです。

完全和解や自業自得の結末を期待していたわけではないですが

結末自体がないのは違うと思う。

 

それに主人公の家族は本人が思っているよりも良い人達だったのは

たぶん作者が書くのに飽きてそこらへんの描写を端折っただけな気がします。

 

後半の投げやりと放り出しがひどく、読んで損したと思える小説でした。

残念。