「従僕と伯爵と私」の感想

ヴァレリー・ボウマンさんの従僕と伯爵と私のネタバレあり感想です。

 

従僕に扮した貴族であるヒーロー3人が

それぞれのドラマを繰り広げながら運命の出会いを果たすシリーズ物らしいです。

すでに既婚者であるクレイトンにも

今の奥さんとのドラマチックな出会いがあったようです。

ただ従僕になっていないだけで別で本が出ていそう。

 

今作のヒーローであるケンダル伯爵は

婚約者に一方的に婚約破棄されたトラウマから

家柄と財産だけではなく本当の愛情を向けてくれる相手と出会いたいと

お酒の席で管を巻きます。

使用人に優しい人こそ愛情溢れる素晴らしい人に違いない。

なら使用人になって見極めようぜ。

面白そうだから俺らもやろうぜ。

ついでに賭けもしちゃおうぜ。

 

頭が痛くなりそうですが実行されます。

ちゃんと研修期間を経て従僕に扮するんですが

貴族のお家の使用人って一流ホテルマン並みの動きという認識なんですが

一長一短で習得できるものなんですかね?

みなさん元から優秀っぽいからできるのか。

 

そしてヒロインであるフランシスと出会います。

フランシスが従僕である自分に優しく接してくれたことにより

あっという間に恋心に火がつくんですが

まって、フランシスはあなたの顔がいいからそういう態度な気がする。

 

確かにフランシスは元から優しいですし、

自分の家のメイドにもきつく当たったりしません。

そのメイドはなかなかイイ性格してましたが。

でもケンダル伯爵扮するマーカスを追いかけて

従業員のエリアまで入ってわざわざ謝罪したり

楽しくお喋りをしたりするのは

確実に気があるから。

他の従僕全員に同じ態度はしないはず。

してたら逆に気が多い人みたいになってしまう。

 

そして中盤は意外にも新しい法案のことがメインになっていきます。

ケンダル伯爵が推している法案はフランシスには受け入れがたく

女だてらに声高に反対意見をのべ続けています。

そのせいで嫁ぎ遅れてしまっていますが本人は気にしません。

でも伯爵的にはようやく見つけた愛する人

自分がどうしても成し遂げたい法案の一番の反対者だということに打ちのめされます。

ただでさえ身分を詐称して親しくなってしまった負い目があるのに

政治的にも対立してるなんて見通しは暗いです。

 

何回も打ち明けようとしたり、もう会わないと誓ったりするけれど

どうにもうまくいかず、

ついに正装した伯爵の姿でフランシスの前に現れた時には

周りの人達に邪魔されて打ち明ける前に周囲の声でばらされてしまいます。

一番最悪な展開ですね。

そしてショックを受けるフランシスに

「違うんだ、自分の話を聞いてほしい」

と言い募る伯爵。

このワードを言うとだいたい聞いてもらえないので

このセリフを省略して本題を叫んだほうがマシなんじゃないかと常々思う。

 

もちろんうまくいかず逃げられて

何回目かのもう従僕やめて家に帰るを発動させる伯爵。

それをするならもうちょっとアタックしてほしい。がんばれ

 

「罪悪感よりも最悪な感情は後悔」

友人からそう後押しされて伯爵は動きます。

とても良い言葉だと思います。心に留めておきたい。

 

そしてなんやかんやありまして

伯爵の推し進めていた法案は主人公のダメ出しのおかげで

あまりというか全然良くないものだと自覚され撤回されることになります。

それは伯爵からすると貴族は平民を保護するもので

それをやり易くするための制度とする予定だったんですが

貴族はいくらでも平民から搾取しても良いという結果になりかねないものだったようです。

性善説が前提のものだったので、通ってしまっていたら本当大変でした。

主人公は良い仕事をしたね。

色々な貴族を説得してまわったと書いてあったので

もろ手を挙げて賛成されているイメージはありませんでした。

案外まともな貴族が多いのかもしれません。

 

友人が主人公への仲裁に入り、また帰ろうとしていた伯爵と和解し

お互いの気持ちを確かめ合い体の関係を結びます。が、そこが長い!

正直あまり重要と思っていないので仄めかす程度にしてほしいけれど

そういうものだから仕方ない。

でも全体の6%くらいって長すぎませんか。

そして終了。

主人公と結婚する気満々だったサー・レジナルドはどうなったのか。

あの激しい母親がどういう風に手のひらを返したのか。

浪費家の父親の行く末や妹からの祝福などもほしかったし

友人達からの今回の感想もほしかった。

 

あと2冊は出ているから他視点から語られるのかもしれないけど

訳されていないようなので真相は分からなそうです。

 

馬丁に扮した公爵が自分から婚約破棄したご令嬢に正体を見破られ

なんだかんだ良い感じの雰囲気になっているようでした。

 

従僕に扮した侯爵は、自分が従者をしている貴族が連れてきた小間使いと相性が悪いようですぐ口論になってしまうようです。

察するにその小間使いはその貴族の娘で、どういうわけか同じく変装をしているんじゃないかと思えます。

この話がとても気になるんですが読めそうにないのが残念。

 

一冊でも楽しめる三部作とのことですが

どうせするなら全部訳してもらわないと消化不良になります。

 

貴族が従僕に変装するという漫画のような出だしから

突然メインに政治の話が出てくるのは面くらいましたし

その内容もなかなか出ててこないのでどれだけ素晴らしいのかと思ったら

あっさり撤回されるようなものだったのでなんだったんだと。

それにすぐに言い訳して逃げ続けるヒーローや

嘘をつかれていたのがショックだったから、

話も聞かずに一番結婚したくない相手と結婚すると言い張る主人公にちょっと疲れました。

 

★★

 

 

 

 

 

 

「黒の公爵」の感想

マーガレット・ムーアさんの「黒の公爵」のネタバレあり感想です。

 

あらすじ

悪い評判しかない黒の公爵の義理の母親の話し相手として働いている主人公。

お屋敷にめったに表れない公爵が足を負傷して帰ってきた。決闘の結果だ。

いくら女癖も悪いと言われる公爵でも自分のように不器量な女性には興味を持たないだろうと思っていたのに、気が付くとお互い意識するようになっていた。

 

最初はなかなか面白かったです。

 

悪い評判しかない黒の公爵であるヒーロー。

一見人当たりが良く魅力的な腹違いのヒーローの弟。

牧師補の純朴な青年。

見た目も性格も良い若いお嬢さん。

そしてみなから口を揃えて不器量と評価される主人公。

 

色々と気持ちの矢印が交錯してどうやって落ち着いていくのかと

楽しみに読めていました。

とくに若いお嬢さんが珍しく性格が良いので

どうか身の安全を守りながら幸せになってほしいとハラハラさせられました。

 

結局弟さんの不始末をヒーローが負っていたのが悪評の原因だったんですが

さすがにすぐばれると思うんですよね。

主人公ですら聞き分けられないほど声が似ていても

髪の色が黒と金髪と明らかに違うなら早々間違えないと思うんですが。

 

あと、主人公の見た目が良くないと再三言われ続けるのですが

本当に?と思ってしまう。

主人公の容姿は

茶色のたっぷりとした髪、青い目、綺麗な鼻、薄くない唇と白い肌だそうです。

十分魅力的な描写だと思うのですが

なぜずっと見た目をこき下ろされてるのかわからない。

せめてお化粧をしっかりしていないから第一印象が地味とかだったら分かるんですが。

実際舞踏会を開いた時に着飾ったら

プロポーションが良いのもあって見違えたそうです。

そのすぐ後に訪れた若いお嬢さんの前にはすぐ霞んでしまったようですが

お嬢さんが際立って美人だっただけなので

とりあえず人並み以上なことは確かなはず。

 

ヒーローが主人公を意識したのは最初に出会った時なんですが

自分の容姿に反応しない真面目な珍しい女性というのが原因です。

実は主人公はバリバリに意識してたんですけどね。

顔も赤くなったりしてたのにヒーローは気が付かなかったようです。

それだけで不意打ちにキスするくらい気があるようになるの展開が速すぎないか。

悪評通りと思われても仕方ない。

 

さらに弟さんも参戦しますがこれは兄への嫌がらせなので唐突でも大丈夫。

段々と惹かれているようでしたが、

きっと手に入れたら雑に扱うタイプだったと思います。

 

牧師補の青年はもしかしたら主人公に恋愛感情があったのかもしれませんが

若いお嬢さんの登場で消し飛びます。

でも主人公は最初から意識してなかったのでノーダメージです。

 

若いお嬢さんは弟さんの表面的な魅力にやられかけますが

ヒーローの機転で牧師補との幸せな将来へ向けて突き進みます。

玉の輿に乗せたくて仕方なかった狡猾そうなお父さんが

それをあっさり諦めて2人の中を認めたのはよくわからない。

 

そしてヒーローは自分が被っている弟の悪評のせいで臆病になっており

主人公を諦めようとしますが、

主人公がグイグイ動いたおかげでプロポーズをします。

こういう本はどうしても体の関係が出てくるのですが

この話ではいっさいそれがありません。すごい。

最初に関係を持ってしまってずるずると続き、最後に結婚がセオリーのなかで

段階をふんでからのプロポーズのあとですら

そこへ至らないのはとても良いことだと思います。

 

弟に脅された主人公が逆に弟を脅し返すところも良かったです。

 

ただ評価できるのはそこらへんだけで

父親の遺言を言い訳に弟の悪い評判を一身に受けて最後見放すヒーロー。

常に過保護な義理の兄と実の母親からの反抗心と見せかけて

たぶん元から性格の悪い弟。

そこらへんのしがらみに寄り添わず、

かばってもらってるのにその態度はないと説教する主人公。

 

段々全員嫌いになってきます。

 

さらに弟は兄が関心を寄せたと思い込んだ女性に手を出しており、

妊娠したと分かると逃げてしまいました。

さらに悪いことにその子供は死産になってしまい

女性は気がふれてしまったうえ病気で余命いくばくもなくなってしまいます。

そして弟と結婚したと思い込んでおり、お屋敷の目前まで訪れますが

薬で眠らせてどこか預かってもらうところを探さないととヒーローが言って

その人のシーンは終了。登場しません。

 

なんでこの人いれた?

 

おそらくヒーローに亡くなった子供が?という疑惑をこちらに植え付けたかったのと

弟がいかに屑だったのかをアピールするためだと思いますが

ここまできたら本懐をとげるか最低限弟に責任をとらす、

または再会させるまでしないとストーリーとしておかしいんじゃないですかね。

 

義理の母親が血縁関係がないのにヒーローのお金を散財することに対して

亡くなった父親の遺言があるからやりたいようにやらせているようですが

そこらへんの描写もない。

なのに主人公と結婚を決意したヒーローは家からあっさり追い出します。

衣食住は保証されてるとは思いますが切り替えが早すぎる。

 

耳が遠くなってしまった執事が納得して仕事を辞めることができたのかも気になります。

 

それにヒーロー初登場時の決闘の理由もはっきりと明かされません。

確実に弟の尻ぬぐいなんですが、

当事者じゃない人が決闘することに相手は納得したんですかね。

 

そしてその弟はヒーローにキレてもう戻らないと家を飛び出してそれっきりです。

完全和解や自業自得の結末を期待していたわけではないですが

結末自体がないのは違うと思う。

 

それに主人公の家族は本人が思っているよりも良い人達だったのは

たぶん作者が書くのに飽きてそこらへんの描写を端折っただけな気がします。

 

後半の投げやりと放り出しがひどく、読んで損したと思える小説でした。

残念。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げ出しだ愛人」の感想

ジュリア・ジェイムズさんの「逃げ出した愛人」のネタバレあり感想です。

 

あらすじ

姉夫婦が亡くなり遺児であるアリを引き取っていたアンだが、姉の夫の兄であるニコスが現れ甥を手放すよう要求し、百万ドルを提示してくる。条件はアリに二度と会わないこと。アンはそれを受けるが、4年後偶然にも甥と再会をする。その隣に魅力的で自分を軽蔑しきったニコスもいた。

 

この2人、相手の第一印象どちらも最悪なのに

お互い見た目がドストライクすぎてずっとグラグラしています。

それが面白い。

分かりやすくてロマンス小説の入門編としてオススメしたいかも。

 

アンはお金を受け取ったこちらの事情をまったく顧みずに

見下し続けるニコスとずっと距離をおこうとします。

姉のことを身持ちの悪い女扱いして自分の弟との結婚を許さなかったせいで

今回の交通事故が起こったとも思っているので許せません。

しかし初めて見た時から彼の外見に惹かれ続けています。

 

ニコスはお金のために大事な甥を売ったアンを姉と同類と思い軽蔑し

4年後再び甥の前に現れたアンに金の無心にきたと激怒します。

ニコスは初めて会った時のアンに対して外見を含めマイナスの感情しかありません。

でも二度目に出会った時に身ぎれいにしたアンの外見に一目ぼれします。

 

こういう時ってヒーローは

貧乏でボロボロな外見なのになぜか光るものがあると見抜いたりするものですが

そういうことが一切ないのが逆に潔い。

 

姉の遺児であるアリの叔母であるアンは

アリ達家族としばらく一緒にバカンスをすることになりますが、

ニコスは究極に気に食わない。

でも心臓の悪い母親を気づかって表面上は波風を立てません。

でもこっそりアンに皮肉を言うことはやめない。

 

アンは百万ドルの使い道をニコスにまったく明かさいのが良かった。

豪遊に使ったと思われているけれど、わざわざ訂正することもないと思っています。

なぜならニコスに好かれようと思っていないから。

好意的に思っている相手が自分のことを誤解していたなら

包み隠さずとはできなくても訂正しようとすると思います。

でもニコスにそれをするためのコミュニケーションすらとりたくない。

おそらく言ったところで信じないというのもあったと思いますが

それをずっと貫き通します。

でも魅力にはすぐやられちゃう。

 

ニコスは最低な女と思っているのに惹かれてしまっていることにイライラし

最終的に体の関係だけの愛人にして適当なとこで縁を切ればいいと思いつきます。

名案!みたいな感じですが

甥っ子や母親のいる前で愛人を囲おうとしないでほしい。

アンのこと何も言えないくらい最低って分かってないのすごい。

 

ニコスは距離を詰める言い訳ができたのでグイグイいきます。

アンは正直関わりたくないけど姿を見るだけでときめいてしまうので

あっという間に篭絡されてしまい大変後悔します。

 

そのままなし崩し的に愛人になるかと思ったら

毅然とした態度で関係を絶とうと努力します。

ここで流されないアンかっこいいです。流されかけるけど。

 

最終的にちゃんと会話をすることで誤解がすべて解け

結婚してハッピーエンドなわけですが

交際ゼロ日婚と言っていいほどそれぞれのことを知らないのにいいのか?

お互い姿を見た瞬間に恋愛感情が爆発してしまうから関係ないのかな。

 

ただアンの百万ドルのお金の用途がアフリカの孤児達のためという

突然スケールの大きい話になったのは面くらいました。

アンと姉は孤児になってしまい大変な苦労をしたという話があったので

きっとそっちの方に使ってるとは思っていましたが

まさか自国を飛び出してしまうとは。

 

現地でアフリカの子供達に愛情を注ごうとしたアンが

結婚してお金持ちの旦那と可愛い甥に囲まれて暮らすことを選ぶギャップが大きく

目立つための舞台としてアフリカの子供達が消費された気がしてしまいます。

それだったらアフリカではなくもっと近場からだったら

結婚してもなんらかの活動を続けるのだなと想像しやすかったのですが

これだと最初の志しを諦めてしまった印象になりました。

 

アフリカという遠い地へ行こうとするアンを

今引き止めなければ永遠に自分から離れてしまう。

その焦燥にかられ本心を晒すニコスというのをやりたかったのだろうけど

最後の最後で釈然としませんでした。

 

それでも、憎しみを持つほど嫌いなのに

外見が好みすぎて嫌いになれない2人という

難儀ですがまさに恋愛物といった感じは面白かったです。

2人とも既婚じゃなくて命拾いしたな。

 

★★★★

 

 

 

 

「氷の伯爵」の感想

アン・グレイシーさんの「氷の伯爵」のネタバレあり感想です。

この前感想を書いた作品と似たようなタイトルですが探せばもっとありそう。

 

あらすじは

天涯孤独で親戚を頼り、家庭教師として無給で働いていたタレイアは

ある日氷の伯爵と呼ばれるダレンウィル伯爵の結婚相手を探すパーティーに参加させられ見事選ばれる。

しかし伯爵は馬を選ぶように相手を吟味しており

子供を産めれば誰でも良いと言っていることをタレイアは聞いてしまう。

 

なかなかにひどい出だし。

これですごいのは、伯爵は本当に馬を選ぶように奥さんを探していることに間違いがなかったことです。決め手は違いましたが。

馬を見る目はあるようですがこれを聞いて怒らない人はいないでしょう。

もちろんタレイアはショックを受け断ることを決めますが

それを聞いた親戚がただでさえタレイアが選ばれたことが気に食わないのに

さらにメンツを潰されたと激怒し解雇を言い渡します。

無一文で何もない田舎へ強制的に帰されるよりかは

馬のようにただ子供を産むだけの人生の方がまだマシなのではないかと

泣く泣く伯爵の求婚に応えます。

が、その主人公の気持ちを伯爵は把握しておりこちらも激怒。

ただ引くに引けず三週間後に結婚式は強行されますが

式が始まるまで2人は会話どころか会うこともありませんでした。

 

こんな流れなのにワクワクするのはなぜだろう。

おそらくそれこそ氷のようだった伯爵がこの短い出会いで

タレイアに惹かれているのが分かるから安心感があるからかも。

そして主人公はなんだかんだで伯爵の外見を好ましく思っています。

このマイナスとみせかけてプラスが潜んでいる関係から

どうやって幸せになるのかと

先が気になって読む手が止まらなくなります。

 

面白かったのがすれ違いがすごいところ。

健康的な雌馬を探すようなつもりでいた伯爵は、

タレイアの子供への愛情の深さに感銘を受け

子供時代にトラウマを抱えていたからこそ、この人しかいないと思っているのに

自分から愛情をうまく示すことができていないので勘違いされ続けます。

 

タレイアは伯爵の態度に一喜一憂して忙しい。

あんなに親しくなったのに、次の日にはどこまでも冷徹。

押してだめなら引いてみろを教えてくれる友人を得られたのは

大変幸運だったしそっけなくされて焦る伯爵も面白かった。

 

さらにタレイアはパリを伯爵と一緒にまわりたいのに

ただ観光したいと思われていてがっかりしますが、

1人で出かける時のために伯爵につけられた従僕が

絶対に浮気しないように変わった風貌の男性を選んでいるなど

無意識に独占欲を出されています。

 

タレイアの置かれた境遇の中で自分の精一杯をしようという姿勢に好感がもてます。

ストレスを感じると空想の世界へ逃げて自分を保とうとしますが

伯爵との関係が深まっていくと

空想の相手が伯爵へすり替わっていくので大変意識しているのが分かるのも良い。

さらにストレスで爪を噛む癖があるのを自制し、

自分の綺麗な爪先に誇りを持っているところが大変可愛らしかった。

ただ結婚してからはまた噛む癖が出てしまい

それを含めて伯爵に受け入れられているところも大好きなシーンです。

 

伯爵は伯爵で自分の知っている一般女性の価値観を当てはめて

タレイアに喜んでもらおうとプレゼントなどをして奮闘していますが

元から贅沢な暮らしをしていないタレイアが

ピンときていないのにイライラしているのも良いすれ違いで楽しい。

自分が彼女に夢中になっていることにすら気が付いていなそうです。

 

イタリアへ行くための山越えのシーンは

思いがけず昔の風土に触れることができました。

いくらお金を持っていても楽はできないんですね。

それを言ったら領地へ行くために2日間馬車に揺られるなど

現代に生きてて良かったと思うことがしばしば。

 

待望の赤ちゃんを妊娠したと分かったとたん

伯爵は子供が産まれるまでには帰ってくると簡潔な手紙を残しお屋敷から出ていってしまいます。

いよいよもってお前には興味がない必要なのは子供だけという態度にしか思えない行動。

でもそれもこれもすべてはタレイアのためでした。

勘違いさせるような行動しかできない伯爵。

でも今までのすれ違いはどうしようもないと思えたけれど、

最後の手紙はなぜ家を出るのか、何をしに行くのかは書いたほうがいいかも。

それかまめに連絡をとるとか。

伯爵は今まさに戦争中の場所にタレイアの生き別れの弟を探しに行ったわけですが

旦那が自分に興味がないと思わせる手紙と

自分のために危険極まりない土地へ行っているのを知る

どっちがましですかね。

こう並べると無事に帰るなら前者の方が良い気がするからこれでよかったのか?

タレイアが打ちひしがれながらも伯爵のことを想い続けてたのはせめてもの救い。

 

ただ最悪な親戚がそのままなのは少し気になります。

改心や謝罪は無理そうですが、放置され興味を持たれていない子供達や

優しい使用人達と別れてそのままなのが少し寂しい。

あまり良い環境には見えないお家でしたが、

昔の貴族では当たり前の境遇だったのかもしれない。

 

最後の伯爵の殺し文句を含め、最初から最後まで大変素敵な作品でした。

この作者の違う作品も読んでみたい。

しかしタイトルがよくある系で損してる気がする。

 

★★★★★

 

 

「復讐は恋の始まり」の感想

リン グレアムさんの「復讐は恋の始まり」のネタバレあり感想です。

 

あらすじ

コナーが死んだ。交通事故だった。その原因はひどい別れ方をした恋人のリジーにあると周りは信じて疑わない。本当は違うのにリジーにはそれを言えない理由があった。

そして腹違いの兄であるセバステンは弟のために復讐を誓うのだった。

 

いやびっくりした。なろう小説かと思った。

なろう小説のだいご味であり良くないところでもあるのが

一方の話のみを鵜呑みにし、主人公の事情を聞かずに断罪してくるのと

主人公がそれを耐え忍んでしまうところなんですが

これはまんまなろうですね。

なろうの場合は読みやすいようにと工夫した結果

展開の省エネでそうなってしまうのも仕方ないと思うんですが

海外の小説でもそれが出てくるとは思わなかったです。

 

ヒーローはお金持ってるなら興信所とか雇って

経緯を探るくらいはしておいた方が良い。

とくに気になる女性のことならなおさら。

主人公は気分転換とはいえ喪中にクラブに行くのは非常識なタイミング。

いくら自分は関わりがなく、何も悪くないと知っていても

周りはそうとは思ってないから陰口を叩かれるのも仕方ない。

 

良かったところは主人公がヒーローにまったく依存しなかったところ。

ヒーローがお金や権力をチラつかせても

まったく頓着せずに自分でなんとかしようとするところが良かった。

なんだかんだで結構助けてもらってはいましたが。

 

おそらく主人公はお金持ちの家に生まれたのが間違いだのでは。

お金があるから何もしなくていいという空気に染まってしまい

基本が真面目なのに適当な生き方を強要されて馴染んでいない感じでした。

親に勘当されて自活するようになってから

ようやく自分に合った生き方を見つけれたように見えます。

そもそも何もさせてこなかったのに家を出た後に援助なしとか

家猫を突然野良猫にしたような虐待です。

田舎に引っ込ますぐらいで良かったと思う。

その怒りすら見当違いだから

主人公が全部の罪を被って黙っているのがストレスでした。

 

主人公は顔にそばかすがあるのを気にしているんですが、

そういう時のヒーローは大抵そばかすも可愛いと思う流れです。

でもこのヒーローは主人公の顔が赤くなって

そばかすが見えなくなったことを好ましく見ています。

つまりそばかすは好みではなかったようです。珍しい。

 

なんやかんやで事件の真相が暴かれ、主人公の冤罪が晴れます。

家の前にいる報道陣に説明に行った時、落ち着いて対応したとあるけど

こういう時どうしてもドヤ顔になりそうな気がする。

ならないのは人柄なのか?

自分は悪くないという主張を受け止めてもらえて

守るべき義理の母の赤ん坊はそもそも妊娠していなかったから存在しておらず

ホッとしたら笑顔になってしまうのではないか。

義理の母親のことが大好きだったら複雑で感情が沈むかもしれません。

でも性格が最悪な義母なのでそれはない。

父親を想ってかもしれないけれど、

娘の意見も聞かずに若い奥さんを優先し

家から追い出すような人に対して聖人すぎる。

 

そして主人公にまったく悪いところがなかったと分かったとたんの

ヒーローの手のひら返し。

ニッコニコで結婚を申し込みに行く神経が分からない。

せめて申し訳なさそうにしたり謝ってからにしてもらいたい。

お金持ちの傲慢男としては正しい対応なのかもしれないけど

金持ちだからと言って人の心がないのか。

主人公が怒るのも当然。子供がいなかったらどうなっていたんだろう。

ヒーローの手で真実を明らかにしていたらまだスムーズな流れだったと思う。

 

そして離れていっていたお友達らを結婚式に呼ぶ主人公。

これからも付き合いがあるからと言っていましたが

舌の根も乾かぬうちにこの対応をされるのはどうなのか。

呼ぶ方も呼ぶ方だけど、招かれた方も気まずくて仕方ない空間になったと思う。

嫌がらせで呼んだのかと思ったらそうではないみたいなので

2人だけのお式とかにすれば良かったのに。

 

結婚してもハッピーエンドにはならず気持ちのすれ違いの喧嘩が始まりますが

もういいよといった感じ。

 

それでも主人公の純粋さは結構好きでした。

お金持ちの世間知らずのお嬢さんで、さらに優しい気づかいの人だったから

コナーや義母に利用されて今回の事件が起こってしまったんでしょう。

最後にお金があるのに仕事を辞めずに自立したのも好ましい。

仕事といえば、ヒーローが自分の会社に主人公を囲いこんで嫌がらせを指示したり

体の関係をもったりするのはなかなか最悪でした。

働けないタイプの人かと思ったら他の会社ではちゃんと仕事をこなせたので

ほんと離れて正解です。

あれ?ヒーローと結婚したの本当にハッピーエンドだったのか?

 

★★

 

 

 

「灰色の伯爵」の感想

パトリシア・F・ローエルさんの「灰色の伯爵」のネタバレありの感想です。

 

あらすじは

幼い頃に両親を亡くした主人公キャサリン

後見人である叔父の借金のカタに

冷徹と言われるコールドベック伯爵と結婚することになる。

そして伯爵と共に訪れた新しい居住先の領地では

残忍な連続殺人と放火事件が起こるのだった。

 

恋愛だけかと思ったら意外にもサスペンスが始まります。

最初はお得だと思いワクワクして読んでいたんですが、

事件の残酷さが思っていたよりもひどく、

読んでいてテンションが下がってきました。

もう誰も犠牲者が出てきてほしくないという気持ちを

登場人物達と共有できる臨場感はありましたがそこまで望んでいない。

 

とりあえず登場人物の感想。

まず主人公のキャサリン

すぐに怒るところが魅力のようです。

ヒーローであるコールドベック伯爵はそんなキャサリンに夢中です。

でも実際怒ってばかりの人ってそんなに魅力があるものなんでしょうか?

結構自分の感情や機嫌に左右されているので

そんな理由でヒーローに当たって大丈夫かとハラハラしたりしました。

 

そしてヒーローのチャールズことコールドベック伯爵。

初登場時、部屋に立てこもるキャサリンと対話するために

ドアを容赦なく蹴り開けます。

しかし怒ってはいなかったそうです。でも怖いよ。

センセーショナルな登場をしたかったのかな。

この伯爵、実はキャサリンに一目ぼれ。

どこかで彼女を見かけ、結婚するためにあの手この手を尽くしたようです。

それでも怒っているキャサリンに対して下手に出ることもなく常に悠然と構えています。

そしてキャサリンが怒る。

 

2人の関係性は突然の環境の変化と

物のように売られたと感じたキャサリンが激怒するなか

大人なチャールズが余裕をもって相手をしつつ実はメロメロという感じかな。

 

年の差が元からあると思いますが、大人の包容力を感じるヒーローは珍しい。

だから生命そのもののように喜怒哀楽がしっかりしたキャサリンを受け止めれて

相性がとても良く感じます。

 

ただ殺人事件がほんとに陰惨で・・

被害者は身体的に不自由なところがある女性達で

拘束されたうえに乱暴され、その後殺した後に建物に火をつける。

なんでこの人達がこんな目に合わなければいけないのかと怒りがこみ上げました。

最後の被害者なんて生きながら耳を切られたようで一番ひどい。

だから犯人を捕まえて2人の愛を確かめ合いハッピーエンド!となっても

素直によかったねという気持ちに切り替えれませんでした。

 

犯人はチャールズの友達のアダムだと思って読んでいたら全然違いました。

チャールズの妹と恋人関係にあるのに

なかなか結婚の了承をしてもらえないのは

なにかしら問題があるからでは?と思ったんですが。

火傷の痕をつけて登場とか、

事件現場の近くに登場とかも怪しさ満点だったんですが

スリードに引っかかったようです。

妹の義理の息子は怪しすぎて逆に怪しむ余地はなかったですね。

 

結局犯人はチャールズの隣人で、

過去のトラウマが性癖に刺さってしまっての犯行だったようです。

キャサリンが領地へ現れおそらく一目ぼれし、

スイッチが入ってしまったのが事件の始まる切っ掛けだったようです。

犯人の過去をクドクドと解説せずに

ぼんやりとした断片のみの表現だったのは良かったです。

でも、そもそも事件を起こすにしても

被害者にここまでひどいことをしなくてもいいのではないかと思ってしまいます。

なにしろこっちはロマンス小説を読むつもりだったので

盛り上げるための舞台装置としてこの犯行を用意したならちょっとドン引きです。

1人目までは許容できたけど

2人目は被害者の旦那さんが落ち込む描写とか大変つらい。

それを言ったら1人目は幼い子供が2人いました。

キャサリンが運営する孤児院に入れるための流れだったら

それもやっぱりどうなのと思ってしまいます。

 

キャサリンの癇癪を受け止めれるチャールズというのがとても良かったのですが、

事件のせいで真顔になってしまうストーリーでした。

 

★★★